深夜食堂 3 (ビッグコミックススペシャル)(安倍 夜郎)』今年度のマンガ大賞候補作ともなったが、中でも一番地味な作品かも。連載中の「ビッグコミックオリジナル」のサイト内に作品の雰囲気が分かる試し読みコーナーがあるので、未見の方は是非閲覧してみてほしい。一見不器用そうでそっけない作風だが、ページから立ち上ってくる空気は温かい。
ところで、著者の絵はとても丁寧だけれどどこかぎこちなさがあり、うま下手風の絵、となんとなく思っていたけど、「ちくわ」の段で中に入れるきゅうり(よくお弁当に入ってたよ、うちでは)のアップを見たときに、そのリアルさにちょっと驚いた。決して下手では無いんだよな、やっぱり。しかし、リアルすぎる絵は、この作品には必要ないのだろう。適度にデフォルメされ、適度に省略された絵柄が、この大いなるマンネリ感を醸し出す。この作品はまだ三巻だというのに、既に10年続いていてもおかしくなさそうな雰囲気を持っていて、しかもそれは決して悪い方に響いていない。ページを開けばそこにあるという安心感。それは深夜0時を回ると開くこの店にも通じていて、何よりも「そこにある」ことの安心感を感じさせるのだ。下手な冒険は要らない、下手な演出も要らない。まるで、この店がそのまま雑誌に存在するようである。
ところで、やはり夜なのでみんな酒を片手に何かつまみでも、という注文をする。メニューにないもの、といっても、そこまで無茶なことはしないのはいわば暗黙の了解だろう。そんな中、そんなものなどぶっちぎってしまう人もいる。ここでいうと「ビーフストロガノフ」の女性とか。こんな一杯飯屋の風情の店で、誰がビーフストロガノフを頼むだろうか? だったら洋食屋にでも行けばいいのだ。しかもいつも突然だ。時間がかかって待たせちゃうから食べたい時は前もって言ってね、と言ってあっても。もちろんそんなことをするには彼女なりの理由があり、この店の主人や常連は、その事情を知っても、心配をしても敢えて口出しはしない。ここはいろんな事情を抱えた人が来るから、いちいち首を突っ込んでいては身体がもたないのだろうが、客もまたそんなことを望んでいないからだろう。そういった付かず離れずの距離感が、またいいんだろうなあ。よくもまあ知り合いや離れ離れになった家族に出会う店だな、とは思うが、それはまあ、ファンタジーでもあるので見逃してみる(笑)。
ここに来る客はとても幸せには見えなかったり、一見不幸ど真ん中に見えるのに実は本人としてはとても幸せだったりして、世間の物差しが通用しないことが多い。まあ、それに伴う食べ物も、他人から見ると「何それ」というものもあったりするのだが。そんな中で失敗したり立ち直ったりして行く様を穏やかに見守り、やってきたらいつもと同じように出迎える、そんな「素っ気なさ」が店も客も読者も長持ちの秘訣かも。食べ物を通してみる人間模様。食べるときってその人の本性が出るものだものね。その人の好むものならなおさら。