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Mint Julep

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2004年05月20日 (木) [長年日記]

_ [読書]ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』読了 はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加

スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫FT)(ケリー リンク) スペシャリストの帽子 (ハヤカワ文庫FT)(ケリー リンク)

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 読了。いやー、面白かった。全体を通してみると、まるっとお見通しな女性と、楽観的で子どもっぽい男性、という図が見えてくることもあって、おそらくジェンダー小説などに馴染みがある人の方が、抵抗無く読めるのではないか。とは言ってもティプトリー賞受賞の「雪の女王と旅して」以外はそれほど露骨ではないので構えなくても大丈夫だとは思う。それよりも何の説明もなく話しが始まり、ちゃんとした結末を迎えるとは限らない作風のため、いわゆるエンターテインメント小説が殆どの人は「訳わかんねー」となってしまうかも。海外ではどうなのかは分からないが、日本の純文学的な領域で幻想小説を書く作家の作風にとても似ているので、そういうのが好みの人には絶対にお勧め。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「雪の女王と旅して」は、ある日前触れもなく家を出た後行方不明になってしまった恋人カイを探しに、雪の女王に会いに行く話。おとぎ話がモティーフになっていて、それを意識したり敢えて外すようなギミックが、ジェンダー小説的かな。例えばロバに変えられてしまった自称王子は主人公に「キスしてくれよ」と言うのだが、「そうすればどうなるか分かっている」からその行為を避けて通る。森で会う屈強な山賊の親分が女性だったりするし、従来の物語の約束のジェンダーをひっくり返してしまうところもあったりする。話しの輪郭は他の作品よりは掴みやすいので、比較的親しみやすい一作といえる。メタ的な視点を持っていて、この物語を「雪の女王ツアー」と称するところなども、面白い仕掛けだと言える。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「人間消滅」は、遠く離れたところにいる両親の手紙をひたすら待つ女の子の話。それを観察する同い年の女の子が主人公で、彼女は女の子のことをよく分かっている。周囲は誤解していたり、女の子の存在自体を忘れてしまったりするのだけれど、それは自分たちのことだけで手一杯な大人たちとの乖離とも言える。三というモティーフがそこかしこに出てくるが、これは明らかに両親と自分という「家族」なのだろう。だからこそ、三個あったオレンジのひとつを他人が取り上げるだけでもひどく怒ったりする。

途中、女の子が何を待っているかを悟った主人公が幼なじみの男の子に協力して貰って「手を加える」のだけれど、これが裏目に出てしまったらどうしようととても心配になってしまった。女の子は(おそらく)両親の元へ帰れたようなのだけれど、後味が比較的いい作品だと思う。ちょっと泣きます。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「生存者の舞踏会、あるいはドナー・パーティ」は、比較的私には難解だった作品かな? こういうことなのだろう、というのは分かるのだけれど、それは何となくで、本当にそうなのかどうかも分からない。おばあちゃんの大きな口のようなトンネルを抜けたそこは――ということなのだろう。死者と生者もはっきりしない不気味な世界での話。ゴシックホラー風味?

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「靴と結婚」は、4つの小さい物語からできている。足の大きな妻を持つ男は、本当は足の小さな女が好きで、長いこと「ガラスの靴」にぴったりくる少女を探し続けている。足の大きい、小さいはおそらく男性の意のままに扱えるかどうか(纏足などの例もあるように)というモティーフなのではないかと思うのだが、彼女の作品にはしばしば「足の大きな女」と「足の小さな女」が出てくるのが興味深い。次はハネムーン中のカップルがホテルのテレビで美人コンテストを見ている話。しかし、そこに出てくる「美女」たちは、およそ普通のタイプの美女ではない。足が何本もあったり、自分の付き人を食べた噂のある鋭い歯としっぽを持った女だったり、大体女かどうかも怪しかったり、失語症だったりする。ハネムーンカップルの女性は心の中で男に「どうかこの手を離さないで」と願う。手は、足を包んでいる。次が独裁者の妻の話。次々と人を殺害した独裁者と、その犠牲になった人の靴を収集する妻。この妻はとても美しいようだが、足が大きいそうだ。どうやら、彼を暗殺したのはこの妻らしいが……。「ハッピーエンド」という最後のパートは、占い師がもうすぐ結婚するカップルを占っている様子。とても幸福な将来ですよと保証するのだが、どういう訳か私にはおそろしく不安な未来が感じられる。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「私の友人はたいてい三分の二が水でできている」は、真夜中に電話で話す、友達以上で止まっている関係の二人。時々幻想っぽい場面はあるが(男のアパートの住人の金髪率が高いとか、12人の金髪のエピソードとか)、話の骨格は至ってまっとうな話。この相手の男は無類の金髪好きらしいが、それが原因でどうやら彼女と付き合う可能性が無いようだ。でも。私にはこの主人公は金髪のように思えるのだけれど(言葉の端々から、としか言いようがないが)、果たしてどうなんだろうか?

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「ルイーズのゴースト」は、名前が同じ親友同士の話で、叙述トリックというか、叙述のややこしさがそのまま小説の面白さになっているような感じ。何の前触れもなく話し始めるので、果たしてこのルイーズはどっちの?とか、探りながら読んでいくようになる。それは物語中のルイーズもまた同じで、片割れのルイーズの好みがチェリストのため、どのチェリストが今の「いい人」なのか見当が付かない。そのお陰で二人の仲が裂かれることになるのだが。片方のルイーズは妻子持ちと付き合っているので寂しい夜を過ごしている。そんな彼女のところに幽霊が居着くところから話が転がるのだが、彼女の家には色んなものが今までにも出現している。除霊の方法を皆に尋ねて実行してみるのだが、そのうちに、自分と共通の好みを発見していつしか好意を抱き始めるところなんぞ面白い。しかし、丸裸の幽霊とは? そして、かつて犬だったと主張し、今は緑色のものを身につけ緑色のものしか食べない子どもアンナとは? 浮遊感があって、この不思議さが面白かったです。ルイーズはルイーズを愛しているのだね。これはおそらく、憧れと嫉妬。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 「少女探偵」は、少女探偵を追いかける男と太った男(十二人の踊る姫君の長女と結婚したのは彼?)と少女探偵との話…となるかな。因みに「十二人の踊る姫君」の話はグリム童話のようだね。『さくらんぼの性は』にもやはり同じく夜な夜な踊り続ける王女(こちらは天空の浮島が舞台なのだが)が出てくるので「あれ?」と思って検索したら引っかかった。少女と言いながらも彼女は女性性を象徴してもいる。少女なのに母親のようなことを求められたり。同じモティーフが別の場所ではちょっと違ったニュアンスで登場したりして、そのめまぐるしい展開(まるで、イメージがクルクルと踊っているような)にうっとりとしてしまう。おそらく、この話は木の上で眠る主人公の夢、ということでオチが付くと思うのだけれど、そういうオチはもはやどうでもいい。「それから、母親がいないという点も。これはフィクション、とりわけおとぎ話のもう一つの側面だ。(中略)母親たちはみんな同じ場所にいる(p.415)」という、おとぎ話の少女の母親はいつも不在で(無条件で愛し、庇護するものがいないという場面を作ることで、少女の命や立場が危うくなる設定を引き出すのだろう)ある事実に気付き、「母親たちは同じ場所にいるのでは?」という疑いを持つくだりなど、素晴らしい。それと印象的なのは、行方不明になって久しい夫の夢を見続ける妻と、実は地下室にずっと存在する夫の話。何故そうなってしまったかは分からないが、それを続けていくことは、何となく必然性(というのかなあ)が感じ取れる。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 全般的に、既成のモティーフをうまくアレンジして自分の作品の重要なファクターとして取り込む手法がうまい作家だと思う。こういった「予め了解のある物語」を背後に持っているからこそ、説明を省くことが許され、そこから幻想性が補強される、という構造をとっているもののように思える。それぞれが全然関係ないようで、しかしどこかで繋がるような印象を持つのもおそらくこのせいだろう。繰り返すが、日本の、純文学の境界部分が好きな人は比較的すんなりとこの世界に入り込めると思うし、私自身、かなり好みだ。いろいろなモティーフを読み落としていると思うのだけれど、これはsalon.comのインタビューを読むしかないかなあ(苦笑)。

_ [仕事]っつーか はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加

帰れねえっすよ。体力消耗してきてるので早く帰ろうと思ったけど書類仕事があったので我慢して片づけて…と思ったのに、次から次へと……。

_ はてなブックマークに追加 del.icio.usに追加 MM/Memoに追加 業者さんからの連絡に返事をしてしまったのが間違いの元だろうけれど、大した手間はかからないから今日やってしまえ、と考えたのだよね。あー、もう、ホントにブツが届いたらPCの電源を切ってしまおう。

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